Canon F-1 -(11) 水銀の代わり-
Canon F-1には露出計が付いている。今聞けば当たり前と思うが、1970年代のライバル機Nikon F2では、スリムなアイレベルファインダーで露出機能は使えず、ごっついフォトミックファインダーが必要だった。ファインダーに露出機能を持たせたNikon F2に対し、Canon F-1はボディ側に露出機能を持たせていた。このためアイレベルファインダーで露出計を使うことができた。
ファインダー右側に表示される縦長の白い表示のなかの横棒-の指針は光量とシャッター速度で上下に変化する。○は絞りに連動する追針。絞りを動かし追針の○を指針の横棒に合わせると適正露出(逆にシャッター速度を変化させて指針の横棒を追針の○に合わせることも可能)。
露出測定をしているのは中央の角丸四角の部分のようで全体の12%。これは、手動で露出を合わせるのに、とても便利なシステムだ※。
露出計を動かすには電池が必要になる。F-1より少し前の時代のカメラ、初代キヤノネットなどには太陽光で駆動(発電)するセレン光電池による露出、AE機能が付いていた。1960年代のカメラの露出とAE機能が、外部からの電力ではなく太陽電池で動いていたのはすごいことだ。しかし、F-1では外部からエネルギー供給(電池)が必要なCdS(硫化カドミウム)素子による露出計になっている。これは、セレンの反応性、精度、劣化などからだろう。信頼度の高い方式を選択したことは賢明だ。
しかし長い目で見た場合、意外な盲点もあった。クラシックカメラ好きなら誰でも知っていることだろうが、F-1をはじめとした1970年代のカメラに広く使われた水銀電池(MR-9、1.35V)が手に入らないのだ。水銀電池を前提に考えられた古いカメラは多い(OM-1もこの電池だ)。こちらのページ左欄の「適合アダプタの確認はこちら」を見るとびっくり。水銀汚染の問題から世界的に生産中止になったため、もう1.35Vの水銀電池は手に入らない。この手のカメラ趣味に足を踏み入れた人は皆一様に驚くことだが、なんでも揃う(ように思える)この便利な世の中で、1.35Vのこの形状の電池は、なかなか手に入らない。
ただ、探せば代わる手段はいくつか見つかる。
(1) MR-9(H-D)アダプター
クラシックカメラの修理や用品販売などを行っている関東カメラサービスが販売しているアダプター。
1.5Vの銀電池を1.35V相当に変換するアダプター。ただし、ファインダーイルミネーターFに入れたら暗くて使えなかった。電力が小さいのだろうか。3,000円前後とお値段は張るが、一度アダプターを買ってしまえば、中に入れる銀電池SR43は250~400円ぐらいとリーズナブル。でも、この銀電池、小さなカメラ屋やディスカウントショップでは手に入らない。
私はこのアダプターをメインで使っている。
(2) 空気亜鉛電池MRB625
Wein Cell社製の空気亜鉛電池MRB625。電池の表面に開けてある微細な穴から入る酸素による酸化反応によるものかな。1.35Vで形状も一致しているのが長所。オークションや通販などで手に入るが600円ぐらいと少し高め。封を開ければ、使わなくても自然放電(酸化?)により6~10ヶ月程度で寿命になった。また、低温時に安定しないという話も聞いたことがある。
下の写真を撮るときに気付いたのだけど、未開封だが表面が劣化(錆び?)しているみたい。消費期限まではまだかなりあるはずなのだが…。
(3) アルカリ電池(1.5V)
海外の何社かが生産しているようで、オークションや通販で入手可能。250円ぐらいと一番安いが、問題は約1割増しの電圧。この1.5Vだと指針の位置が高い(実際より明るい値として計測)。これに追針を合わせると、より絞ることになりアンダーになる。問題は明るいところ(高照度)と暗いところ(低照度)で、ずれの度合いが異なること。ちょっと試した感じでは、高照度のほうがずれが大きい感じ。ASA(ISO)を下げて補正すればうまくいきそうな気もするが、そこまでは確かめていない。カメラ修理業者によっては、この電池(1.5V)で合うように本体の露出設定を調整してくれるところもある。
私はファインダーイルミネーターF用に購入したけれど、カメラの露出用には使ったことはない。ラティチュードの広いフィルムを使い、半絞りから1.5絞りぐらい適宜開けば利用可能かな。でもそれでは、露出計なしで経験で撮るのとあまり変わりない。
いずれにしろ最適な1.35Vの水銀電池は、手に入らない。もう多くの人には価値のないクラシックカメラを使い続けるためには妥協も必要だ。できるところで折り合いを付けて、使えるものを使っていくしかない。
※当時の一眼レフでは、ファインダーの全面を平均した測光や、中央部重点測光などの方法もあったようだ。Canon F-1の中央の12%分だけで測る方法だと、露出を合わせたいところに中央部を持っていき適正露出を決め、その後、望む構図に変えて撮ることができる。私にはこれがとても使いやすい。中央部重点測光のCanon A-1を使ったときには、ファインダー内のごく一部だけ明るい(太陽光が入るような)場合などでは、望む露出にならず失敗写真が多かった。
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コメント
未開封だが表面が劣化(錆び?)しているみたい:空気亜鉛電池は出荷時表面にシールが貼られています。使用30分ほど前にシールをはがさなければ発電しません。
封を開ければ、使わなくても自然放電(酸化?)により6~10ヶ月程度で寿命になった:使用後はもう一度シールを貼り直せば反応を止めて寿命を長持ちさせられます。
投稿: TT | 2011/05/20 21:27
> 未開封だが表面が劣化(錆び?)しているみたい:空気亜鉛電池は出荷時表面にシールが貼られています。使用30分ほど前にシールをはがさなければ発電しません。
何回も使っているので、使い方は分かっています。
写真に写っていますが、内側の円部分の右下が(おそらく)金属錆により白く変色していることを書いただけです。写真のものは、まだ未開封だから起電するしないは確かめていません(おそらく少々錆びていても使えると推測はしていますが…)。
投稿: ひゅ~ず | 2011/05/22 20:33