映画:チェイサー/グラン・トリノ
久しぶりの文芸坐。
チェイサー ★★★☆☆
アイデアは良いのだが詰めが甘い。サスペンス、探偵、異常犯罪者、いろいろなものがミックスされて標準以上のレベル。しかし、構成にいろいろと穴がある。警察の捜査がずさん、尾行の女性刑事の雑貨店の前での行動。犯人が尾行をどう捉えているかなどの扱いに緻密さが不足。
ジュンホが雑貨店前で警察官に止められるところと映画の最後に振りかぶったハンマーを止められるところのスローモーションとバックミュージックも洗練されていない。また作品全体をとおす気怠さ、親子の情などの空気感をもう少し出すべきだったと思う。
主要人物三人、ジュンホ、ヨンミン、ミジンはそつないけれど強い印象は残さない。ヨンミンあたりはもう少し「ノーカントリー」のハビエル・バルデムのような印象に残る役にできたと思うのだが、もったいない。
グラン・トリノ ★★★★★
イーストウッド最後の出演作と言われている作品。それどころか遺作かと思うような内容だが、本当に良くできている。この展開に持っていくことに異を唱えたくなる箇所はあるにしろ、認めざるをえないストーリー。欠点を見つけるのが困難な演技。無駄なくそつない映像と編集。「チェンジリング」、硫黄島二部作に引き続き、すごいものを観せていただきました。前にも書いたが、八十近いあの年齢でちゃんとした構成のちゃんとした娯楽作品、かつ、自分の見識を込めた作品を作り続けられることは驚き。
ギャングが闊歩する長年住む街の荒廃や自分の子供たちとの断絶と対比させ、"古き佳きアメリカ"を懐かしむ。しかし、新移民たるアジア系住民を認め、彼らを代表するタオにグラン・トリノを譲るというストーリーに、彼の今のアメリカ観が現れている。ただ、その中にも、「共産勢力と戦ったから移民せざるを得なかったモン族」というところには保守性を感じる。
朝鮮戦争時代に殺した若い敵兵、その悔の念から逃れられないこと、そして最後に選んだ選択に、近年のアメリカの戦争、戦略に対する考え方も込められいる、、、または、読み解く・投影することができる。過剰防衛で敵を殺し続けてきたヒーローの代表であるイーストウッドの最後の出演作での、この姿には感慨がある。
このような多重、多元的なストーリーでありながら、まったく退屈しない一流の娯楽作品なのだから恐れ入る。
【GPS情報】
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