映画:実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
下高井戸に移動して観る。前の2本の合計よりこの映画のほうが長いし、値段も高い。
★★★★★
気骨溢れる作品。3時間10分の長尺だが、あまり長さは感じない。こういう劇映画を観ることが出来るということ、観ることの出来る社会に感謝したい。
1960年代末の日本の政治情勢、学生運動をダイジェスト的に描くところから始まる。あまりにもかいつまんだエピソードの連続と登場人物の多さ、それをカバーするための人物紹介の字幕の多さなどに、とおりいっぺん、表層的に描いた作品かと思う。しかし、30分を過ぎたあたりから徐々に変わる。山中に籠もっての軍事訓練、そして死の総括(山岳ベース事件)のあたりからすごくゆっくりになり丹念に、総括=集団リンチの姿を長々と延々と描いていく。そして映画は、あさま山荘での機動隊との対決に突っ走る。
世を変えたいという彼らの動機、永田洋子、森恒夫、坂口弘が主導した残虐なリンチ。メンバーの苦悩、葛藤、洗脳下での判断の欠如とリンチへの荷担。これらに正面から徹底的に向き合っていると思う。ストーリーの展開のさせ方、カメラ、演技、すべてにおいて標準以上だし、作品全体か持つパワーに感動する。でも、これを私よりも一世代若い人々が観たとき、受け止めることができるのだろうか。同時代を生きた中高年齢層を超えて、この作品を観る人が増えれば良いのだが…。
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上映が終わった後に、若松孝二監督による舞台挨拶がある。ただ単純な舞台挨拶を超えて、講演のようになり、最後は質疑応答。結局40分以上やったんじゃないかな。そこで印象的だった話を、以下箇条書きに(一部の内容は聞き取りと記憶に自信なし。参考までに)。
・出来上がり当初は5時間の作品だったが、映画館での上映の制約から3時間ちょっとになった。明言はしなかったが5時間バージョンは、総括のシーンがもっと長く、血のシーンも多かったようだ。5時間バージョンをDVDで出してほしいという観客からの声に対しては、切った部分はもう捨ててしまったとのこと。これに対しては(私を含む観客からは)、もったいなさからため息が出た。
・あさま山荘の撮影はセットを作る金がなく、監督自身の別荘で行った。撮影で壊してしまったので、今は更地にして売りに出している。
・書籍「若松孝二 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」は、朝日新聞社から出したが、最初は発行を渋られた。結局自分で3000部買い取るという条件で発行してくれたが、映画館などでもう1万部以上売った。
・あさま山荘に籠もったメンバーは、中であったことを一切話さないという約束をしている。だから「勇気がない」と叫ぶエピソードは、今まで出た本のどこにも書かれていない。この「勇気がない」と叫ぶシーンは、監督自身がベッカー高原(?)ゴラン高原で坂東國男から聞いた話を一部脚色している(←聞き取りにくかったので正確ではないかも)。
・映画が出来た後、作品をもって中東(?)に行き坂東國男を捜し回ったが会えなかった(←聞き違えているかも)。
・遠山美枝子の描写が多いことは、パレスチナ映画の上映会などを手伝ってくれたなど、自分との関わりがあったから。
・当時、新宿ゴールデン街などの飲み屋で、作家、映画人(野坂昭如、大島渚などなど)などが飲んでいるところに、重信房子が帽子を持ってカンパを集めに来た。皆1000円とかを入れていた。
・「映画の中で赤軍にカンパする作家のモデルは誰か?」という質問に対して、少し口ごもった後、「初めて話すが、あれは私自身だ」と答える。当時、ピンク映画で金回りが良かったので100万円(?)カンパしたとのこと。
・加藤弟は事件後、大学(医学部?)を出たが、躁鬱のような状態で病院に入ったり出たりを繰り返している。
・次回作は、江戸川乱歩の「芋虫」を、太平洋戦争に置き換えた設定で撮る予定。
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高校・大学のころは三無主義の時代だった。1959年生まれの私は、連合赤軍のメンバーたちよりも十歳は年下になると思う。なので、あさま山荘への突入は小学六年生の冬。ちょうど伯父が亡くなり、父が田舎である葬式に行くあいだ親戚に預けられていた時で、学校には行かずテレビにかじりつきで突入シーンを見続けていた。その後、死の総括については新聞の見出しと記事の一部程度しか知らない。後になってこれらの事件についての本を読んだこともないので、知識としては基礎的なところしかもっていない。それでもこの一連の事件は、自分人生の中で、オウム真理教によるサリン散布にならぶ一大事件として残っている。
この映画では彼らの動機の純粋さも描いている。しかし、政治、政治運動というものは結果から判断されるべきものだ。彼らは革命と政権奪取に失敗し、総括という名のリンチを行ったことで、その後のすべての学生運動、社会改革運動を退潮に追い込んだ。そういう意味で、彼らの失敗の責任は非常に大きいと思う。また、可能性はゼロであったが彼らの革命が成功したとしても、ロシア革命直後のような粛正の嵐が吹き荒れ、まともな社会にはならなかった気がする。
もう一点、彼らの純粋さと、暴走、恐怖と洗脳下での狂気の行いは、オウム真理教のテロリズム、教団の信徒たちの姿勢と行動に通じるところが多い。
純粋で信じやすく、組織の掟を守る、社会の汚いところに目をつぶらず改革の意志を持っているし、誘われればそれに加わる。連合赤軍を含む新左翼、そして新左翼が衰退した後に台頭したオウム、似たような若者層を捕まえている。国家権力を駆使して政治の世界の中の過激派を衰退させた結果、権力の取り締まりのなかった新興宗教の世界にそのような人材が流れたのだ。しかし本来、改革の意志を持ち行動するこのような層は、社会を良い方向に変える力にもなる。体制側にそのような動きを取り込むことができない日本社会は大きな欠陥を抱えている気がする。
↑映画のプログラム、パンフレット類は買わないようにしているのだが、映画の迫力に圧倒されたことと単なるプログラムを超えた内容だったので購入する。その場で、若松孝二監督にサインをしていただいく。
[GPS情報URL]
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コメント
こんちには。
確かに「気骨」のある作品でしたねー。若松監督のエネルギ−には恐れ入ります。
連合赤軍ものでは、漫画で山本直樹が今連載している『レッド』というのがあって、これもまた別の視点で面白いです。2巻まで出ております。もしよろしければ・・・
投稿: IMAO | 2008/08/25 09:42
山本直樹ですか。「僕らはみんな生きている」、「ありがとう」、「ビリーバーズ」とかが印象的な作家でしたが、近年マンガ読みから遠ざかっているのでフォローしていませんでした。この人も時代と社会に正面からぶつかっていくタイプだし、エロを前面出している人ですよね。今度機会を見つけて読んでみたいと思います。
投稿: ひゅ~ず | 2008/08/27 15:16
そういえば、永田洋子を演じた並木愛枝は、IMAOさんが評価されている「14歳」でも、女教師を演じているんですね。美人ではないけれど本当に実力ありますね。
投稿: ひゅ~ず | 2008/08/29 11:37
そーかー、そういえば気付かなかったです。鋭いですね。
でも最近日本の若い役者さんはかなり巧い人が多いと思います。
まー、でもこの映画に限っていえばやはり若松監督の演出あって
の事という気もします。なにしろアノ当時の若者の気持ちを判らせる
だけでも大変だと思うので・・・
投稿: IMAO | 2008/08/31 02:03